お坊さんと、常識を覆して生き生きしよう!

徒歩で行きづらい立地の寺に、毎月100人前後が集う!@行田市・長光寺

全国さまざまな地域のお坊さまがたと話していると、しばしば「都会はいいけれど……」という話になります。
地方寺院から墓じまいしてゆく檀信徒が、

息子たちは都会に家を建ててしまい、もうこの村には帰って来ないので、息子たちの家の近くの納骨堂に移ります

などと話すため、地方寺院に未来はないとお感じになられているのです。
しかし都会で疲弊し、うつやパニック障がいをはじめ各種の不調を抱える人々が、お寺や神社という特殊空間に滞在し、いままでの価値観から断絶された暮らしを数週間~数ヵ月送ると、それだけで精神的不調も健康上の問題も解決してしまったという事例がいくつもあります。

ほんとうは、人里離れた山村のお寺にこそ、隠れた大きな価値があるかもしれないのです。

今回うかがった長光寺(曹洞宗)は、山村ではなく利根川べりの平地にあり、「埼玉県行田市」という住所表記からは、さして交通の便が悪いようにも思えないのですが、最寄りの鉄道駅から徒歩40分以上かかり、バスも通勤通学時間帯にしか多くは通らないという不便な立地にあります。

この長光寺では、米蔵を改築してできた「空華(くうげ)」というホールで毎月コンサートが開かれていると聞き、拝見してきました。

「空華」の外観はとてもモダンで、広い空に映えています。

「忍の行田の昔話語り部の会」のかたによる地域にちなんだ語り、福島住職によるウィットに富んだ端的な法話、そして演奏会がセットになった催しです。

境内はひっそりとしたお寺に、いつの間にか120人が訪れていました。
寒い季節にもかかわらず、会場はぎっしりの超満員

500円のワンコインで、コーヒーとお茶菓子までついてきます!

訪れるかたは、お知り合いどうし車を相乗りしたりしていらっしゃるそうです。

今回はアルトSax奏者WaKaNaさんの演奏で、Jazzをベースに唱歌や歌謡曲もおりまぜた多彩なプログラムでした。音楽プロデューサーが毎回違うアーティストを招聘するので、声楽や弦楽など月替わりで楽しめます。

毎月このイベントを楽しみに見えるかたももちろんいらっしゃいますが、皆さんがクチコミで家族やお友達を誘ってみえ、多いときは会場からあふれるほどになるそうです。

前のほうは椅子が並ぶ席ですが、後ろの半分はテーブルに相席となっていて、茶菓をいただきながら、「どちらから?」、「毎月みえているの?」など、初対面の人どうし話も弾みます。

詩の朗読や映画会、コンサートを定期的におこなうお寺は増えていますが、これほど頻繁に開催していてリピーターも多く、地域のかたの文化の拠点として根づいている例は、そう多くないように感じました。

大宮や熊谷の大きなコンサートホールまで行くには往復数時間かかるエリアだからこそ、しかもワンコインというありがたい料金でプロの演奏を楽しめる貴重な場であるからこそ、多くの人が毎月楽しみにこの日を待つのでしょう。

地域の人へ、文化を提供すること。
それも、お寺のたいせつな使命であると感じました。

この記事を書いた人
『いいお坊さん ひどいお坊さん』(ベスト新書電子版, 2011)、『心が軽くなる仏教とのつきあいかた』(啓文社書房, 2017)ほかの著者、勝 桂子(すぐれ・けいこ)、ニックネームOkeiです。 当サイト“ひとなみ”は、Okeiが主宰する任意団体です。葬祭カウンセラーとして、仏教をはじめとする宗教の存在意義を追究し、生きづらさを緩和してゆくための座談会、勉強会を随時開催しています。
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