冒頭、特別ゲストとして大正大学地域構想研究所 BSR推進センター主幹研究員の小川有閑氏(浄土宗僧侶)がお話しくださり、2020年5月に行われた第1回「寺院における新型コロナウイルスによる影響とその対応に関する調査」と、2021年12月に実施された第2回同調査の概要、さらに第1回と第2回の比較について解説してくださいました。
大半のお寺が「法要の減少」「法要に集う人数の減少」を指摘したいっぽう、「月参り」に関してはコロナ状況下においても従来通り実施されている割合が高かったという結果が出ています。
コロナで葬儀に人が集えず会食も省かれていることから、新聞やインターネットメディアによって、「直葬・一日葬などが急増」ということが報じられていましたが、こちらの調査では緊急事態宣言の出ていたエリアを関西圏と首都圏とに分けたデータも検証しています。
すると、関西では葬儀の縮小傾向は首都圏ほど顕著ではないことがわかりました。もちろん、月参りの習慣が残っている地域が多いために、葬送儀礼を重んじる傾向が強かったという事情もあります。
【葬祭カウンセラーOkeiの補足】関東(首都圏)は、「火葬場のほとんどが民営」という東京都の実情が影響して、直葬・一日葬が多くなったと考えられます。コロナ感染流行当初の昨年4月時点で、民間最大手の東京博善から各葬儀社へ、「一日葬推奨、10人以上の会葬禁止、会食を伴う会葬禁止……」といった注意書きがFAXなどで配られました。
これが首都圏のコロナ状況下の葬祭のガイドラインのようになってしまい、近隣の地域にもひろがっていったと考えられます。
しかし、私は相談者からこのような声も、しばしば耳にしています。
「直葬してしまい、弔った気がしない」
「いまはとりあえず自宅に遺骨を置いているけれども、納骨のときにコロナが収まっていたら親戚を集めてお別れ会をしたい」等々。
弔いが「処理」に終わってしまわないよう、人を看とる文化として引き留めてゆくのもお寺の役割です。
火葬を直葬でおこなったご家族に、納骨のとき、お寺で密にならない程度に集っていただき、思い出をじっくり語らっていただく「骨葬」などの試みも、増えてきているようです(山形、北海道の沿岸部など、もともと火葬が先の習慣であったところ以外のエリアでも、という意味です)。
第2回調査では、304の有効回答中83件が「(仏事以外の)生活上の相談を受けた」と回答。
内容は、経済不振や自粛生活でのストレス、感染の不安など、〝誰に相談すればよいのかわからない、漠たる相談ごと〟が多かったようです。
日常生活の歯車がそれなりに回っているとき、会社でのストレスや家庭内の問題について菩提寺に相談する人はそう多くないのが実情ですが、まだ発熱もなく感染した可能性は低いのにコロナに感染することが心配で眠れなかったり、自粛で生じたストレスのやり場に困りながらも、仕事や生活にさしつかえるほどでもなく、うつ病の診断や投薬を必要としているわけではないなど、未体験のやり場のない不安に際し、お寺に相談してみた人が相当数いたという結果は、たいへん興味深いです。
続いて鵜飼秀徳さんからは、衝撃の表題とともにご自身が主催する一般社団法人良いお寺研究会の調査結果が披露されました。
コロナ感染流行がはじまった昨年の3~6月時点のアンケートで、宗教活動による収入(収益事業のぞく)が減ったと回答した寺院は、じつに84%にのぼります。
収益事業も含めてみれば、コロナ以前のお寺の市場規模は、じつは年々増加傾向でした。
2020年、2021年の寺院収入は予想を大幅に下回り、結果として「コロナの影響により、寺院の淘汰は10年も15年も早まった」ことになります。
7万7千ヵ寺ある寺院のうち、正住寺院が6万ヵ寺前後と思われるが、「このまま何の対策もしないと2040年には正住寺院は5万ヵ寺以下になる」という予測とともに、跡継ぎ問題などから宗派としての存続が厳しい例も複数挙げられました。
正住寺院が減れば兼務が増え、ひとりの住職の負担も増し、共倒れの危険性もあり、宗派の再編も不可避であることが示唆されました。
私からは、お寺の本来の使命は供養を担うことでも墓地を守ることでもなく、人々の不安を観じ、世間に充満する不安を減らしたいと願い、祈ることであるとの考えを示しました。
多くの寺院は、法要や催しを縮小し、お布施が減ったと嘆き続けていました。
そのさなか、地域の人々の声に耳を傾け、病魔退散のお札、お不動さま建立、永代供養墓新設…… と、つぎつぎと新事業に取り組んだ寺院の事例などをご紹介。
最後に、従前より相談活動をおこなってきた僧侶からの「私と同じように相談に応じてきた仲間は、みなコロナ感染流行後、多忙をきわめていらっしゃる」というコメントをご紹介しました。
僧侶の本分は「相談に乗ってくださること」ととらえている市民がいまも潜在的には多くいたということが、コロナによってあぶりだされたのだともいえます。
つづいて、回答者全員が僧侶の相談サイトhasunoha堀下剛司代表は、コロナで相談件数は倍以上になり、質問したくても数時間PCの前でアクセスしつづけないと相談を書き込めない状況であることを報告。
そして、寄せられる質問を大別すると、お釈迦さまが示した「四苦八苦」とほぼ同じになることを発表。
つまり、仏教によって一般市民の幅広い悩みに解決の糸口を提示することができる、ということを示しました。
堀下氏の結論は上図のとおり。
「苦しんでいる人々の声に耳を傾け、寄り添おうとすること」こそが僧侶の使命であり、そのことがコロナにより一層明確になったということでした。
めいめいのプレゼンテーション後のフリートークでは、鵜飼秀徳氏が表題の発言で、「お寺の使命は経済的にうるおうことではない」ということを明言。
むしろ資本主義的競争に勝ち残ることとは別の価値観により、経済不安に覆われたコロナ状況下の人々のこころを救済することこそ、宗教者に託された使命なのだということを確認して幕引きとなりました。
【次回予告】第8回zoom安居は、「お寺の社会貢献」について語らいます。
ゲスト:松島靖朗僧侶 おてらおやつクラブ代表
髙瀨顕功僧侶 ひとさじの会(=社会慈業委員会)代表