ハニワとたどる、記憶の雫

「突然」の退院・入所相談に備える:介護現場から強く推す〝要介護認定の早期申請〟

 長年、介護福祉士として介護業務だけでなく、新規の利用希望者の対応業務もしてきました。その中で、

「いま家族が入院しているが、退院を迫られている。退院しても家での生活はできず、施設に入るように言われている。どうにかしてすぐに入所できないか」

と、切羽詰まった口ぶりで、矢継ぎ早に相談されることが多くあるのです。
 ご家族からだけでなく、医療機関のメディカルソーシャルワーカーからも、このような相談が寄せられます。

 しかし施設側としては、当事者の病状もあまり理解できない上に、自宅で生活できないから施設に入りたいと言われても、何から手をつけたらよいのかわからないのは当然というか、自然なことです。その「ある日突然」は、本当に〝突然、降って湧いてくるように〟訪れます

「ある日突然」を乗り越えるカギ

 ではこの、ある日突然の出来事をどう乗り越えればよいのか。

 これは、「あらかじめ、ある程度の知識を持っておく」ということに尽きると思います。

 たとえば、骨折などの理由で入院したとしましょう。入院直後は、病状が急激に出現し不安定な時期で、懸命な治療や処置が行われます。少しずつ快方に向かい、状態が安定してくるタイミングで、おそらくリハビリが開始となります。

 リハビリをして、もちろん入院前の状態まで回復することもありますが、加齢や元々の筋力、後遺症などによって、なかなか回復しない場合もあります。回復が難しいということは、退院後には適宜援助が必要になる、ということです。回復の程度だけでなく、仮に転倒して入院した場合は、自宅に戻ると再度転倒するリスクがあること、また脳梗塞の場合は、継続して必要な服薬を自力でできるのかなどといったことが複合的に判断され、ケースによっては「施設に入らないと生活ができない」という結果になるのだろうと思います。

入院中にできること:退院後が見えたら、「要介護認定の申請」を

 では、施設に入所するまでに、いったい何ができるのか。

 それは、「要介護認定の申請」です。これは認定に1ヵ月くらいかかるため、早めにしておくことを、強くお勧めします。

 どんな理由で入院したのかにもよりますが、転倒による骨折や脳梗塞などの後遺症が残りやすい病気の場合、回復しても何らかの援助が必要になる可能性が高く、回復しない可能性もあるので、申請するほうが得策です。

 入院中から申請準備をしたほうがよい理由は、要介護認定を受けていないと、施設入所を含む介護サービスを、原則として受けることができないからです。

 自宅に戻るにせよ、施設を希望するにせよ、介護保険を利用するためには必須なのです。

申請プロセスと時間のかかるポイント

その申請プロセスをざっくり説明すると、以下の流れになります。

  1. 市区町村の介護保険課(地域によって名称は異なります)や地域包括支援センターで申請書をもらう
  2. 必要事項を記入、提出
  3. 訪問調査を受ける
  4. 結果が通達される

 現在は、マイナンバーカードがあれば、オンライン申請ができる自治体もありますし、地域によっては申請書のダウンロードもできます。

 もう少し詳しく説明すると、申請書類の中に、「主治医意見書」というものがあります。これは、入院していればその時の主治医に依頼し、記入してもらうものです。

 本人や家族が記入する申請書はさほど難しくないですし、すぐに書くこともできるのですが、この主治医意見書が手元に届くまでに、時間を要する可能性があります。外来や回診、手術やその他の書類作成の中で依頼するので、特に大きな病院だと時間がかかる場合があります。

 本人確認書類や申請書が揃ったら、それを介護保険課や地域包括支援センターに提出し、訪問調査を待ちます。おそらく、この訪問調査を待つ時間が一番長くかかるのだろうと思います。

 申請はいつでもできるのですが、入院中の場合、退院後の状態がある程度予測できるまで病状が安定しないと訪問調査が受けられません。そのため、調査を受けられるタイミングは限定的なのです。

 しかも、調査する側は、全国的に高齢者福祉に携わる職種の人員不足と利用者の増加に直面しています。そのうえ新規の申請だけではなく、更新のタイミングでも調査を実施するため、非常に多忙です。

 訪問調査は、市区町村から訪問調査員が、被保険者のいる場所を訪れ、身体や認知機能を調査し、家族やその時に関わっている人たちから聞き取りを行うものです。だいたい、1時間ほどで終わります。

 その訪問調査の内容と主治医意見書を元に、コンピューターにて一次判定を出します。その判定を元に、市区町村の有識者が複数名集まり、介護認定調査会(通称、認定調査会)にて最終結果を出し、通達されます。認定調査会は市区町村によって、開催頻度が違いますが、私の町だとだいたい月に2回ほど行われます。都市部などの人口密集地だと、週1回のペースで行われる所もあるそうです。

 原則、申請から30日以内に結果を通達することとなっていますが、さまざまな理由で、それ以上かかることもありますので、申請は早めにしておいた方がよいと、つくづく思います。

 今まで受けた相談の中で、「必要がない」と早合点して申請をしていなかったかたが、少なからずいらっしゃいました。サービスを使わなくてもよい状態ならもちろん必要はないのですが、介護認定の結果もサービスも、基本的に、「必要なときになったらすぐに使えるものではない」と思っていただいたほうがよいのです。

現場の想い:いのちと生活を守るために

 サービスを提供する側からすると、「一刻も早く提供した方がよい」と感じるケースはもちろんあります。しかし、介護サービスはボランティアや慈善事業ではないので、利用料金が発生するのです。

 料金だけでなく、本人の身体状況や認知症の有無、家族の状況などの基本情報を知らないまま利用を受けることは、できる限りしたくないのです。それは、すべての介護サービスは、本人と家族の生活と命を守るものだからです。

 このような理由から、介護保険は即時に使えるものではなくなっているのだろう、と理解はしていても、複雑な思いを感じています。

 いつ何が起こるか分からない、その時のための準備はいろいろとあると思いますが、そのひとつとして要介護認定の申請があり、それは必要になってからではなく、必要になりそうなタイミングで、できたら早めに行なうことが、本人や家族、この先関わっていく人たちにとっての安心材料にもなる、と強く思います。

 介護サービスを受けるために、考えないといけないことや、動かないといけないことがありますが、サービスを提供する側から言うと、〝その申請の関門さえなんとかクリア〟していただけたら、「あとはこちらにお任せください」というのが正直な思いなのです。

 〝その時〟は、いつやって来るのかわからない。――それは本人にも家族にもいえることです。いつやって来るかわからないからこそ、知識として準備しておくことを、現場から強くお勧めします。

この記事を書いた人
特別養護老人ホーム、老人介護施設、ショートステイ、デイサービスなどで20年以上、介護福祉士として働いています。この仕事、大好きなんです。
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