お坊さんと、常識を覆して生き生きしよう!

寺社でつくる、ふりかえり自分史 & 金剛院見学ツアー@豊島区椎名町 金剛院

各自、お好きなテーマで写真を持ち寄っていただき、スクラップブッキングという手法を用いて1冊の自分史にまとめました。
会場は、豊島区椎名町駅前の金剛院(真言宗豊山派)。勉強会の前半は、2014年に本堂耐震改修を含む大工事を終えたばかりのこのお寺を、ご住職の野々部利弘さんにご案内いただく「金剛院見学ツアー」といたしました。

【参加者】
僧侶 4名
葬祭業等 2名
士業 2名
自分史活用推進協議会理事 1名

お寺でつくる、ふりかえり自分史

【趣旨】 2014年12月に主宰の私Okeiは、寄稿した中外日報「論」の後半部分で「寺社でふりかえりをすること」を提唱しました。
提唱しただけに終わらず、実現のための第一歩をとの思いから、勉強会の開催という運びに。「自分史づくり」をご自身で一度体験していただくことにより、ご自坊ご自社で「ふりかえり自分史」の講座を開催できるようになることを目的として開催しました。

スクラップブッキングなら1日で完結

今回使用したのは、見開き15ページのスクラップブック。
集めてきた写真を、黙々と切って、貼る作業。
自然と、昭和の頃を「ふりかえる」会話が花開きます。

集まったテーマは、「自坊の活動10年史」、「購入した漫画を時系列で並べてふり返る」、「子どもの成長記録」、「愛犬と過ごした記録」など。
切り抜きながら、「○○さんの小さい頃はモノクロ写真ですね」など、世代を超えて話がもりあがりました。

(参加したかたからの感想)
・貼る写真を選ぶ時点で、十分ふりかえり効果があった。
・当日は半分までしか貼れなかったが、帰宅後完成させたら生きる元気がわいた。
・参加してよかった。紙のアルバムに整然と貼ってあるより、スクラップにしたほうが「何度も見る楽しみ」があるとわかった。
・つくりながらいろいろ語らう、この時間がいいんだとわかった。

写真がデジタル化されてから、「時系列でふりかえる」機会が減りました。
昔は、子どもが卒業入学のたびに家族みんなでアルバムを開き、「あのときはこうだった」、「このときは大変だったね」…etc. と、人生のなかで何度もふりかえりを体験していたと思います。

スクラップブッキングは、スクラップ帳にデジタル化された写真を(もちろんネガから焼いた写真でもいいのですが)時系列で並べ、簡単なコメントをつけて、色紙やテープで装飾していくだけの、簡単な手仕事。
お寺でできる手仕事にはお念珠づくりなどもありますが、どのように貼ってあってもそれぞれにストーリーが見え、他人が見ても楽しめるので、巧拙を気にする必要がなく、また、隣り合わせた人が年代を超えて語り合えるのも、大きな特徴でした。
さらに、年月の経過を積み重ねてきたお寺という空間で行うことで、集会所など無機質な空間で同じことをするより何倍ものふりかえり効果を生むことも実感できました。

ふりかえり自分史をつくる活動を実現する寺社がひとつでも増えることを願っています。


【金剛院見学ツアー】

ふりかえり自分史の制作に入る前に、会場となった豊島区椎名町にある金剛院(真言宗豊山派)の見学会を実施しました。

椎名町駅北口の階段を降りると、右斜め前に見える赤門。江戸時代、赤門は徳川家の縁戚だけに許された(東京大学の赤門は、その場所が11代将軍の娘・溶姫の嫁ぎ先であった名残)。

椎名町には、かつて手塚治虫、藤子不二雄ら有名漫画家が暮らしたトキワ荘があった。それにちなんで新たに建立された創造の縁を結ぶ「マンガ地蔵」。ペンをかたどった光背。御手にもペンが。

赤門の右手にはカフェテラス「なゆた」。窓際の席は、弘法大師さまのお姿を拝みながらゆったりと読書のできる都会のオアシス。カフェを通り抜けてお寺へ入ることも可能で、檀信徒でなくても気軽にお寺へ立ち寄れる構造となっている。

日が暮れないうちに、墓地の見学へ

東京23区内、駅徒歩0分という場所にあるこのお寺でさえ、昨今は「墓じまい」をなさる檀信徒が増えているという。

金剛院では、次に紹介するいくつものパターンの「新しいお墓」がつくられ、柔軟性ある最先端の都会のお寺という印象を得た。

イエ制度が崩壊し「個」の時代になったのだから、「これからの墓地は、期限をつけたほうがいい」と野々部住職。石の墓標がほしいが、外柵もなく従来型の墓地より撤去等が楽な新形式のお墓。契約した家族(たとえば父母と独身の娘2人など)で最後に亡くなったかたの3回忌が過ぎたら「永代供養墓」へ移すという契約。こちらは、生存確認の調査・連絡等のため年間管理費を課している。


そして、客殿~本堂見学

本堂は先代住職のとき改築されており築60年。客殿は築80年。このたび2014年の耐震大改修で、屋根を軽量のジンク和瓦の金属にしたという。

耐震改修後、伝統的な意匠が守られているとの条件に合致し「登録文化財」の指定を受けた。

「登録有形文化財の指定を受けることで、宗教の枠を離れ、公共のプログラムに活用してもらうことができる。重要文化財と異なり、見て、さわって、ふれあえる文化財である、ということが大きな特徴」
と、野々部住職。

御本尊は大日如来。御本尊や仏具はこのたびの改修に合わせ手入れがなされ、まばゆいばかりに輝く状態に。伝統的なものはバックアップがとれているので、往時の姿に改修することも可能なのだそう。

地域活動の場に利用される「蓮華堂」

2014年の改修で新たに建立された「蓮華堂」。
地下1階、地上2階の会館で、地域のNPO活動や寺子屋的な活動など、各種の集まりに活用されている。
2Fはカーペット敷きのオープンスペース。地域の学童クラブ的な活動や、ヨガ、講座等に使われている。
そして今回、「ふりかえり自分史」のためにお借りしたのは、蓮華堂地下のお部屋。
蓮華堂地下室のストックヤードには、震災等に備え水などの備蓄もされている。

金剛院ツアーを終えて

2014年の改修以前からさまざまな催しに取り組むお寺として知られていた金剛院だが、境内を囲む壁を取り払い「カフェなゆた」が寺の外と内とをつないだことにより、完全に開かれたお寺として機能するようになっていると感じた。
「宗教法人は行政から敬遠される」と嘆くのではなく、登録文化財の指定や地下室の備蓄など、寺側から歩み寄るさまざまな工夫に、一市民として本当に頭が下がる思いがした。

<この勉強会は、2015年6月4日に開催しました>

この記事を書いた人
『いいお坊さん ひどいお坊さん』(ベスト新書電子版, 2011)、『心が軽くなる仏教とのつきあいかた』(啓文社書房, 2017)ほかの著者、勝 桂子(すぐれ・けいこ)、ニックネームOkeiです。 当サイト“ひとなみ”は、Okeiが主宰する任意団体です。葬祭カウンセラーとして、仏教をはじめとする宗教の存在意義を追究し、生きづらさを緩和してゆくための座談会、勉強会を随時開催しています。
SNSでフォローする
Index